昨日の午ごろから『アール・オー』の録音素材のチェックを始める。
重機が建物を解体する音から遠く地下より微かに響いてくるホーンの音まで、乱暴にいえばマキシマムからミニマムまでの様々な「ノイズ」をひたすら聴きつづけていたわけだ。

世界は「ノイズ」で出来ている。

10日分11本のDATに納められた9時間11分16秒の「ノイズ」の肌理を耳で凝視するところから『アール・オー』はふたたび始まる。

なんて恰好つけたが何十分も解体音がつづくと正直スキップしたくなるんだけれどね。

ワイさんは当初「本部棟はあんまり興味ない。解体してる音が聞こえていればいい」といっていたが実際に撮影に入ったら回す回す。特に最後の3日間は素材の半分は本部棟の解体作業だといっても過言ではない。
また「自分がこれほど構図にこだわるとは思わなかった」との発言もあった。ワイさんは見知らぬワイさんの出現に戸惑っているかのようだ。

突如として撮影現場に現れる見知らぬワイさん。
彼は果たして『アール・オー』の救世主か、はたまた壊乱者か。



2度寝3度寝してしまい起きたときには13時過ぎ。今日は15時から歯医者でそのあと病院なのだが日記が書けていない。ノート・パソコンをぱっくり開けて打ち始める。昨日の分まで書き終えたらすでに15時を越えていた。歯医者は予約をとりなおそう。いつもはパソコンで打った日記をノートに書き写すという実の無い労力を使っている。なぜなら日記を打っているパソコンにプリンタが接続されていないから。今回は書き写している時間もないしここはひとつプリンタを持ってきて接続してみようかと試みたが設定やらなんやらしなくてはいけないかと思うと見る間に気が萎えた。病院もまた今度にしよう。幸いに薬も数日分ある。で出かける用意を始めた。歯医者も病院もいくのをやめたのに一体どこへいこうというのか。



また来てしまった。有楽町線市ヶ谷駅。出口を上がると前方右にボアソがそびえている。だが今日はおひつ屋の前で橋を渡らない。川向こうにはいかない。まっすぐと歩いてゆく。GSの角を左に曲がり坂を登る。チケットを買い表のベンチで煙草を吸っているとエムくんがやってくる。ケイさんがやってくる。中に入って椅子に腰掛けているとケイくんがやってくる。エフくんがやってくる。カーテンが開きすこし座りなおす。



日仏学院にて、『パリは我らのもの』(ジャック・リヴェット)を見る。



終映後に廊下でケイさんから声をかけられる。話はわかったかと。トイレから出てさっぱりわからないと応える。ふたりで多分これこれこういうことなのではないのかと考える。トイレから出てさっぱりしたケイくんに詰め寄ると国際的な陰謀とか色々大変なんですよと。



ケイくんエムくんケイさんとウェンディーズへ。チーズ・マッシュルームなんとかのサンキューセットとフロスティのS。いやフロスティはフロスティという名前じゃなくチョコソフトとなっていた。それだ。ケイさんは出会ったころから今に至るまでいくつも仕事が変わったがその間ケイくんとともに3人が参加していた映画がいまだ完成していないのはある意味すごいことだという話に。するとケイくんが君だってあれから撮ってないじゃないかという。ケイくんが以前エイチと今後の身の振り方について話しているときに名前が出たのだそうだ。そんな話題にひとの名前を出さないでくれよ。閉店で追い出され有楽町線にのって帰る。なんちゃってシネフィルごっこもここまで。帰宅したらDATが待っている。鬼の(長回しの途中でバッテリー・チェンジをしたりケツ・ボールドの直前に電池を切らしたりカチンコのあとで電源を入れ忘れていることに気づいたりする)録音技師の顔になって素材と対峙するのだ。顔真似だけなんじゃねえかというような誹謗中傷は耳に入りません。重機の轟音で解体されますのであしからず。



やっと終わった。9時間11分22秒の音塊を前にして見えざる映画を見つめる旅程。只今4時31分。だが今日13時半から映像素材の試写がある。そのためのデジカムを持っていかなければいけないのだが考えると元々DATレコーダーを返却するために持っていかなければならなかったのだ。デジカムのことさえなければもっとゆっくりできたしかさばる荷物がさらにかさばることもなかったのに。ぬぬぬぬ抜かった! 謀ったなエム! 怒りも眠気には負ける。眠たいこといってる奴等も眠くなれば世界は平和になるのにね。おやすみ。